大阪IRに賛成できない理由
民主ネット大阪府議会議員団
1・事業の目的が大幅変更されたこと
大阪IRカジノ誘致計画は、当初、「世界基準・国内最大」のMICEを誘致することで、外国人観光客の誘客、インバウンドを目的としていたが、コロナの影響もあったとは言え、カジノ(ギャンブル)中心の計画へと大きく変更されたことである。
2019年に作成された「大阪IR基本構想」(以下、基本構想)では、IR全体の年間延べ利用者数2480万人のうち、カジノ施設の利用者は590万人と見込んでいた。それが2021年12月23日に公表された「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)」(以下、整備計画)では、IR全体の利用者数1987万人のうちカジノ利用者は1610万人と、基本構想の3倍近くまで引き上げられているのである。
さらに、基本構想ではカジノ売上想定の比率は「外国人2200億円:日本人1600億円」であったのが、整備計画では「外国人2200億円:日本人2700億円」と、圧倒的に日本人に重きを置いた計画へと変更されている。加えてカジノ入場料は専ら日本人のみが支払うことになるが、基本構想では130億円だった入場料収入が、整備計画では320億円と2.5倍に膨れ上がっており、入場料が必要な来場者=日本人等を増やす計画であることがここからも見て取れる。
これらの計画変更を裏付けるように、オリックスの担当者は2021年の決算説明会で「もともとインバウンド等を勘案したうえで数年前からやってきたが、今は客は全員日本人、日本人だけでどれだけ回るか、その前提でプランニングを作っている」と述べたと報じられている。
IRカジノは「大阪経済の成長戦略である」と繰り返し喧伝されてきた。外貨を獲得できるのであれば、百歩譲って地域経済に資する側面もあったかもしれない。しかし外国企業を含んだカジノ業者が日本人の懐をあてにしたギャンブル事業となっている現在のモデルでは、成長どころか大阪経済を大きく毀損することになるだろう。
2・過大な集客予測
整備計画にはカジノ施設の構成についても詳細に記されている。計画によるとカジノエリアの面積は65,166平方メートル。約11,000人を収容できる広さで、このエリアにテーブルゲーム470台、スロットなどの電子ゲーム6400台を設置するとある。
先に述べたように、計画ではカジノ施設だけで年間1610万人の来場者を見込んでいる。
隣接する「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(面積 約540,000平方メートル)の年間来場者は1430万人(2018年)であるので、大阪カジノは約8分の1の面積でUSJを上回る来場者を目指す内容だ。
テーマパークと異なり年齢制限も入場制限もあるカジノにここまでの来場があるのか大きな疑問を感じるが、それ以前に、前述の施設規模では客をさばききれないことは明白である。
これらの集客や地域住民の安全を確保するためとして、夢洲への警察署の新設をはじめ、340人の警察官増が整備計画に明記されている。これは、カジノの集客がうまくいってしまった場合に十分なものかと、うまくいかなかった時に行政の負担にならないか、いずれの場合にも、地域にとって負担が増すのではないか、といった懸念が生じるが、それに府が十分答えているとは言い難い。机上の空論の域を出ない税収を当て込んで警察配置計画を大きく変えるよりも、今大阪に生きて、働いている人々が、安心安全に日々を送れることによって魅力的な街がつくられ、経済が活性化するという地道な方策を選択すべきである。
年間1610万人の来場者数を単純に365日で割ると一日に約44,110人が訪れなければならない。平日も、盆や正月も含めた“毎日”である。さらに収容人数は11,000人なので1日に客が約4回転しなければ入り切らない。前述の通りカジノにはテーブルゲームが470台、スロットマシンが6400台置かれるので、テーブルゲームに10人が座ったとして4700人、プラス、スロット1台につき1人で6400人を合計すると、満席満員状態で11,100人となる。この状態が早朝から深夜までの24時間で4回転し、それが365日続かなければ達成できない数字ということだ。現実的とは言えない。
3・インバウンド依存体質からの脱却が必要
カジノの収益を4,200億円としているが、極めて信憑性が低い。
2月28日の大阪市会 大都市税財政制度特別委員会の質疑で、大阪IRカジノがモデルとしているシンガポールのカジノと比較しても、桁違いに売上目標が過大である旨指摘がなされた。
シンガポールの最も象徴的なスポット「マリーナ・ベイ・サンズ」の来場者は年間4500万人、カジノの収益は2400億円。また大阪と同じくユニバーサル・スタジオもある「リゾート・ワールド・セントーサ」の来場者は2000万人、カジノ収益は1300億円である。
対して、大阪IRカジノは来場者2000万人(IR全体)、カジノ収益は4200億とされている。サンズに対して半分以下の来場者数で倍の収益を、セントーサに対しては同程度の来場者数で3倍以上の収益を上げるという目標である。
新型コロナで、海外旅行は困難になっている。一方で、中国などは国内のリゾート開発に力を入れている。こうした中、ポスト・コロナにおいて新興国からのインバウンド収入がどこまで見込めるかは不透明である。
しかし、カジノで4,200億円の収益があがる前提で、大阪府・市に年間1060億円が納付されるとしているが、その際のカジノ賭金総額は年間6兆円~7兆円*と推測される。こんな目標は果たして達成可能なのか、甚だ疑問であり、少なくとも新型コロナ禍が収束した後の経済の動向が見えてきてから、計画を再度検討する必要があるだろう。
*GGRをもとに計算。
観光庁の統計によると、訪日外国人観光客数が過去最高を記録した2019年の「訪日外国人旅行消費額」は4兆8,135億円だった。これには宿泊費用も交通費も含まれている。しかも日本全体の数字である。どうやって大阪カジノ1施設に6、7兆円もの賭け金を集めるというのか。大阪府・市から明確な説明はない。大阪市はこの納付金を当て込む形ですでに夢洲周辺の整備に巨額の公金を投入しているが、整備計画を冷静に見ればこの事業がいかに危険なものかが理解できるはずだ。非現実的な目標を掲げて、当てのない利益を求め、巨額の血税を投入し続ける大阪府・市の姿は、まさしくギャンブルに狂った亡者のようである。
4・夢洲の災害リスク
夢洲は廃棄物や建設残土の処分場として埋め立てられてきた人工島である。そうした人工島であることから、地盤は脆弱であることはもちろん、数十年以内に発生するとされている「南海トラフ地震」が発生した場合、液状化の危険性が極めて高いとされており、その場合、ほとんどのライフラインは断たれ、避難も救助もできなくなることが容易に予想できる。
大阪市は、万博およびIR・カジノを誘致する以前までは「夢洲に液状化の危険はない」と大阪府の調査と正反対の主張を行っていたが、IR事業者が決定し契約交渉を行う段階で突如、液状化の可能性を認め、土壌汚染の対策費とあわせ790億円もの公金を支出するとした。
しかしこの790億円はIRカジノ事業者側の独自の積算に基づく金額であるばかりか、IR事業者に支払われることとなっている。
5.住民の手による方針転換ができなくなること
大阪IRカジノの契約期間は35年間、そこからさらに30年延長可能となっている。いま、大阪にIRカジノ誘致を決定すれば、大阪は半世紀以上に渡り、大きな負の遺産を残すことになる可能性がある。
カジノに関する意思決定が慎重にも慎重に行われる必要があるのは、特に外資企業との契約が、地方自治を縛ることになるからである。契約は35年続くのであり、仮に現知事の後任として、カジノ反対の知事が当選した場合でも、カジノを簡単に廃止することはできない。実施協定の詳細が明らかにされていない中、確実なことは言えないが、廃止に伴い莫大な違約金を請求されるような契約である可能性は高く、訴訟になった場合、優秀な弁護士を多数投入できる大資本との係争は、一地方自治体にとっては大きな負担になる。後任の知事は、信条として反対であるにもかかわらず市民の声を無視するか、財政負担を押してカジノの廃止を目指すかという極めて過酷な選択を迫られるかもしれない。契約を知事の任期8期分以上という長大な期間、行政の裁量を縛るものであるべきではなく、通常のPFIのように数年単位のものにできないのであれば、行われるべきではない。
以上
2022年3月24日
民主ネット大阪府議会議員団
野々上 愛
山田けんた
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